『父さんギツネバンザイ』:有能な父さんギツネと、三人のけちんぼ農場主の愉快で痛快な知恵比べ。翻訳の二人についてと、″あのお酒”について。

 

 

この本は私のイチ押し。

本当に面白い。

小学生の時、近くの公民館に毎月、貸し出し図書が届いていて、その中から借りた。まさかその記憶がその後の人生にこんなに鮮明に残るとは思わなかった。

 

子供が生まれてからまた読みたくなり、タイトルだけを忘れていて、児童文学評論家の赤木かん子さんという方の、オフィシャルサイト、そこの「本の探偵コーナー」で質問したら、ありがたいことに答えて頂いて、買うことができた。

 

www.akagikanko.net

 

 

 

家族と奥さんに優しく、責任感があって有能。キツネらしく用心深くて我慢強い。そんな父さんがみんな大好き。

ドラマ「大草原の小さな家」(NHK総合テレビで1975年~1982年にかけて放送)を知っている人なら、インガルス一家の頼れるお父さんに例えれば、そのまんま。

 

ただ、家族思いで勇敢、勤勉で正直、自然を愛する開拓者のチャールズ・インガルス(マイケル・ランドン)氏とちょっと違うのは…………やっていい事と悪い事にはキツネなりのルールがある。家族を守るにはきれいごとだけでは済まない。

…人間ではないから当然だけど。

 

 

 

あらすじ

 

三つの農場があった。それぞれ個性的な農夫が経営していて、働き者の大金持ちなのだが、人柄がいけない。三人ともケチで不潔で意地悪。

 

山のキツネにとって農場は大切な狩場で、生きていく分の獲物をいつもこっそり頂戴していた。ところが、やられてばかりの農夫たちは協力してこのキツネ一家を根絶やしにすることにした。そうしてとうとう地面に大穴を掘ってしまったが、キツネの巣穴はどこまでも続いている。

掘ることをあきらめてそこでキャンプを張る三人。兵糧攻めとおびき出し作戦に変更。穴の中でキツネたちは飢え死にしそうだった……。

 

 

感想

 

物語では動物たちは人間と同じように会話し、動物どうしで助け合う。父さんぎつねは「家族のため」という”善”で動いているので、人間はこれでもかとばかりに下衆に描かれる。父さんぎつねの考え方に、少しだけ異を唱える動物もいる。こういう、『チクッと』するところも面白い。

 

 

 

大人になって読んでみたら、また違う面も見えた。

農夫は見てくれは悪いし性格も悪い、けれども、大変な働き者で大金持ち……

大変な働き者なんでしょう?それはそれでよいのでは?

”どっちの視点で見るか”の違いを考えても面白いな。

 

 

 

すべての文が面白かったけれど、一番記憶に残ったのがここ。

酒蔵に侵入したキツネたちが、蔵の中のリンゴ酒を盗み、味見しているところの表現がすごい。子供心に想像を掻き立てられた。

 

このリンゴ酒は、そこらの酒屋で売っている、ありきたりの、シュッと泡立つ薄いリンゴ酒とは、わけがちがう。これは、ほんもの、自家製の、のどを焼き、胃の中で煮えたぎる、火のように強いお酒。

 

「まるで……まるで、黄金が溶けて流れるみたいだ!」

「ああ、キツネくん!お日さまのかがやく光を……七色の虹を、飲んでいるみたいだ!」

出典:『父さんギツネバンザイ』(ロアルド・ダール/評論社)

 

子供の私がいかに「リンゴ酒」とやらを飲んでみたくなったか、分かるでしょう?

 

お酒を飲む年になってからシードルの瓶を見るたびにこの本を思い出し、憧れていたものの、所詮これは"シュッと泡立つ薄いリンゴ酒"。アルコール度数の高い方は未だ出会ってない。

 

この話は「ロアルド・ダール コレクション」だとタイトルが変わり、「すばらしき父さん狐」となっている。これもいいけど、私が撮った上の写真のこの本がお薦め。

だけれども、コレクションもお薦め。全部面白い。

 

 

田村隆一さん・米沢万里子さん……二人の共訳について調べてみた。

 

翻訳家・米沢万里子さんが、ロアルド・ダールの独特のブラックユーモアや、物語の細かな設定、言葉遊びなどを漏らさず日本語に落とし込む作業(下訳(したやく))をし、詩人である田村隆一さんがそれを元に、文章の勢い、リズム、語り口を決定づける最終的な仕上げを担当した、とされてる(諸説あり)。

 

田村隆一さんは、「翻訳は二次的な創作であり、言葉が死んでは意味がない」という考えを持っていて、単なる直訳を嫌ったと言われてる(これも諸説あり)。

 


私がこの本で感じた、まるで秘密めいた内緒の物語を聞かされているような感覚は、そういう二人の共訳による魔法のような文体から生まれたものだと思う。

 

あの「リンゴ酒」の正体について

作中の、『溶けて流れる黄金、七色の虹、お日さまの輝く光、自家製の、のどを焼き胃の中で煮えたぎる、火のように強いお酒』

……なんでこんな夢のような飲み物になったんだろう?

 

そんな強いリンゴのお酒が本当にあるのか調べた。

 

そうしたら、こんなことが分かった。

フランスのノルマンディー地方ブルターニュ地方のお酒がある。

呼び方 状態 一般的な度数 飲んだ感覚(父さんギツネ風)
シードル 醸造酒(発泡) 3〜5% シュッと泡立つ薄いリンゴ酒
カルヴァドス 蒸留酒(加水あり) 約40% 香り高く、上品で温まるお酒
カスクストレングス 蒸留酒加水なし 55〜65% 火のように強く、胃の中で煮えたぎる酒

 

カルヴァドス(標準的なもの)は、リンゴを原料にした蒸留酒(ブランデー)。

製法:蒸留して樽で熟成させた後、出荷前に「水」を加えて度数を最低でも40度くらいまで下げ、飲みやすく調整したもの。

特徴: アルコールの刺激が適度に抑えられ、リンゴの香りと味わいのバランスが整っている。市販されている9割以上がこのタイプ。

 

カルヴァドスカスクストレングス(原酒)
カスク(樽)の」「ストレングス(強さ)」そのまま、という意味。

製法: 熟成が終わった樽から、一滴の水も加えずにそのまま瓶詰めする。

特徴: アルコール度数が高く、物語中の「喉を焼き、胃の中で煮えたぎる」強烈な刺激はこれのことではないか…と。水で薄めていない分、リンゴのエキスが極限まで濃縮されており、香りが強い。

 

カルヴァドスと名乗れる条件

また、リンゴのブランデーなら何でも「カルヴァドス」と呼べるわけではない。フランスの法律(AOC)によって厳しく守られており、以下の条件を満たすものだけがその名を名乗れるのだそう。

 

特定の地域ノルマンディー地方の指定された地区で作られていること。

製法: 収穫したリンゴをシードル(リンゴ酒)にし、それを蒸留してオーク樽で熟成させること。

豆知識: 指定地域以外で作られたリンゴのブランデーは、単に「アップルブランデー」や「オー・ド・ヴィー・ド・シードル」と呼ばれる。シャンパン(シャンパーニュ地方のもの限定)とスパークリングワインの関係と同じ。

 

ということで、心に刻まれたあのお酒っていったい何だったのか?その疑問はこのブログを書いていてようやくわかった。やっと回収できたよ。

 

その夢のようなお酒は相当な値段がするらしい↓↓。

 

↑↑でもこれは51.5度、そこまで度数は高くないね。

 

 

 

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